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11月29日(水)アメリカの厄落とし 〜ポール・グリーングラス「ユナイテッド93」(2006年)

怖い映画というよりも、「怖い目にあったひとたちの映画」です。
え、同じじゃないの、とお思いでしょうが、まあおいおいお話しするとして。

このタイトルは、飛行機の便名。
ユナイテッド航空の93便のことです。
この便、2001年9月11日のアメリカの同時多発テロで乗っ取られたうちのひとつ。
そのなかで、ただ1機だけ目標に到達しなかったこの便をめぐる状況を描いたのが、この映画。

乗客、操縦士、スチュワーデス、テロリストに始まって、地上の整備員、管制官などなど、人物はたくさん出てきます。
しかし、主人公はおらず、役者さんたちは見知らぬ顔ばかり。
そのため、あたかもその場にいるような臨場感が持続します。

飛行機が乗っ取られ、どうやら無事には戻れなさそうだと悟ってからの、乗客たちの行動がリアル。
いえ、証人はいないのですが、少なくともリアルに見えます。
パニック状態になって泣きわめくひとたち。
座席の電話や携帯から家族に最後の別れを告げるひとたち。
スチュワーデスからフォークや消火器を借りてテロリストに立ち向かう男たち。

とはいうものの、これ、映画です。
阿鼻叫喚、てんやわんやから一歩引けば、カメラがあり、照明があり、監督が椅子に座っているはず。
お昼になれば、さっきまで取っ組み合いをしていた操縦士とテロリストが、
「いてえなあ、本気で殴るなよ、ジョージ!」
「HaHaHa、かんべんかんべん、マイコー!」
などと談笑しながらサンドウィッチをパクついているかも。

不謹慎ですか?
では、こうした映画に、不謹慎でない作り方などあるのでしょうか。

同機は、目標のホワイトハウスをそれて、ペンシルヴェニア州の野原に墜落。
乗員乗客は全員死亡したのです。
この映画では、乗客たちの必死の努力でテロを防いだように描かれていますが、実際は藪の中。
誰も分からないはずのことを、ドキュメンタリー風に仕立てて、真実に見せかけ、乗客たちを英雄視する。
つまりこれは、アメリカにとって厄落としのような映画なのでしょう。

「乗員乗客は、怖い目にあったんだよ」
―もちろんです。身の毛がよだちます。テロはいけません。
「だから、こう脚色するのが供養なのだ」
―ふぅむ、そうですかね?

実行犯たちはどれくらい、そしてどのように恐怖を覚えたのでしょうか。
この映画からは、残念ながら、よく分からないのです。
アメリカ映画は今後もさまざまなやり方で、この事件を怖がり続けることでしょう。
できることなら、その恐怖を体験しなかったわたしたちをも怖がらせてくれるような映画が見たいものです。

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